※ぬるいですが一応性描写が…あります…。閲覧の際は自己責任でお願いします。












 ピンポン、と音がした。
 今か今かと待ちに待っていたインターホンの音だった。


「金ちゃん、おかえ…り…」


 ドアを開けた先にいたのは確かに金太郎だったが、傍目にも
 具合が悪いのは明らかだった。
 顔が赤い。はぁ、はぁ、と苦しそうな呼吸だ。

 白石はため息をついて、やっと自分の目線ほどに背の伸びた
 金太郎を黙って抱き上げてやった。







 金太郎から帰国すると連絡があったのは二週間前だった。
 大体いつも思いついた時や自分の好きなタイミングで帰ってくる
 彼なので、事前連絡があることがまず珍しい。
 これまで何度も連絡なしに帰ってきては白石を驚かせていた金太郎だ。
 しかし今回に関しては4月1日着で、彼に誕生日にプレゼントを贈りつけた
 から、何らかの連絡はあるだろうなと思っていたけれど、そんなうれしい
 報告つきだとは思わなかった。
 しばらくしたら帰るわー、という電話越しの元気の良い声に苦笑して
 待っていると告げたまでは良かったのだが、その知らせに浮かれて
 しまって、帰ってくる正確な日時を聞いておくのを忘れた。

 おかげで白石は浮き足立った自分を自覚したまま、二週間を過ごす
 ことになった。
 大学入学と同時に一人暮らしを始めた1DKの部屋を毎日せっせと掃除し
 クリスマスに訪れるサンタクロースを心待ちにする子どももかくやと
 いう心情で待っていたのだ。

 サンタクロースならぬ金太郎は確かに帰ってきた。


「うぅ〜」

「あんなぁ、金ちゃん。確かに俺が帰ってきてて言うたけど、具合
 悪いのに無理して帰ってこんでも良かってんで」


 パジャマに着替えさせてやったあと、白石は金太郎をベッドへと
 押し込んだ。
 自身はベッドサイドに座り込んで、宥めるようにぽんぽんと布団の
 上から軽くたたく。


「だって」

「だってとちゃうやろ」


 叱る時にぴしゃりと金太郎の言葉を跳ね返すところは何年たっても
 変わらない。
 金太郎はくちびるをとがらせた。


「だって、今日白石の誕生日やもん」

「そ、…か」


 ぽそりとつぶやかれた言葉に胸が詰まった。
 素直にうれしい。
 あ、やっぱり覚えててくれたんや、とにやける自分を抑え切れない。
 もしかしたら、とは思っていた。
 けれど、そこは金太郎のこと、帰りたくなったから帰ってきただけ、と
 言い切りそうな気もしたし、ぬか喜びになるのが嫌だったこともあって
 考えないようにしていたのだ。


「それにしんどくなったん帰りの飛行機の中やってん。なんか寒いなーって
 思ってて、飛行機から降りたら関節痛くなってきて…」

「風邪やな」


 丈夫な金太郎だが、年に数回大熱を出す。
 たまりたまった膿を出すかのような大熱だ。


「こんなんで白石のとこ行ってめーわくやって思ったけど」


 迷惑とちゃうよ、と否定する前に金太郎が「会いたかったから」と続けた。


「ほんま、このゴンタクレはかなんわ」

「…あかんかった?」


 しゅん、と布団で顔を隠そうとする金太郎を制した。


「なん?」

「アホ。好きや」


 相反する言葉をさらっとつむいで金太郎のくちびるをふさぐ。


「んん…」


 くちびるを合わせて舌を差し込みながら、白石は布団をめくりあげると
 ベッドの中にもぐりこんだ。
 金太郎の熱のせいかひどく熱さがこもっている。
 口腔内も熱い。布団の中も熱い。


「ん、ちょ、しらいし…」


 金太郎の吐息ですら熱い。
 白石の肩を押し返そうとする力が弱いのは、嫌ではないからか、それとも
 熱のせいで弱っているからか。
 両方やろうな、と白石は笑んでさらにくちづけを深くした。


「ぅん…」


 キスが終わるころには、金太郎の力はすっかり抜けていた。
 真っ赤な顔で息を切らしている。


(あー…あかん、なぁ…)


 先ほど着せたばかりのパジャマを肌蹴させて、首元に吸い付いた。


「あ、ぁっ」


 ひくりと体を震わせて、金太郎は薄らと目を開いた。
 咎めるように首から胸元にくちびるを移動させている白石を視線で追う。
 気づいた白石がふふと笑った。
 かわええなぁ、と囁くと金太郎がまたぎゅっと目を閉じる。


「も、くすぐったいっ…しらいし…」

「こういう時は感じてるって言うんやで、金ちゃん」

「ちゃうって……白石の、こえが…」

「俺の声が?」


 くすぐったいのかと問えば、金太郎は素直に首を縦に振った。


(う、わー…)


 これだから。
 これだから金太郎は困るのだ。
 出会った頃と比べると、丸みをおびた頬の輪郭はすっと細くなって、
 彼は見た目にも大人びた。
 身長も伸びた。
 それなのに大きな瞳の力の強さと、中身の素直さはそのままだ。


「ほんまに可愛え」


 やめるならここ、と思っていたのに。
 結局白石は「金ちゃん、いい?」と口に出して、金太郎の逡巡を
 勝手に肯定と受け取りもう一度深くくちづけた。







「ん…、あ、ん……ぁん!」


 奥まで白石を受け入れさせられてゆっくりと揺さぶられる。
 形を覚えこませるような緩慢な動作だ。
 動きに合わせて甘えた声がもれた。


「や、やぁ、ん…、あぅ、ん」


 胸元でパジャマを掻き合わすように握り締めながら、揺らされる
 ままに甘い声を上げるしかない。
 しらいし、もうしんどい、と合間に言うと、眉間に皺を寄せて白石が
 申し訳なさそうな顔になる。
 しかしその口から出た言葉は表情とは正反対だった。


「ごめん。かわええから止めたれへん」

「んっ、んっ、しら、いし、あ、あっ」

「そんな声出して…かわええ…」

「やっ、や!そ、んな、おく…、ぁっ、や、ん…!」


 苦しいはずなのに確実に快感を拾ってしまい金太郎は戸惑ったように
 あえいだ。
 涙がほろほろと零れ落ちる。
 その様子に白石はますます興に乗ってしまった。
 金太郎の膝をさらに押し開いて、ぐる、と押し付けた腰をまわした。


「や…っ、あっ!」


 くるしい、ほんまにくるしい、と訴えると、白石はゆるゆるとその
 動きを制止させた。
 ようやく揺さぶりが止まって、金太郎ははぁとおおきく息をついた。


「ちょっと休憩しよか。このまま」

「ぅ、え?このまま、って」


 正面から足を抱え込まれて、奥まで白石を受け入れているこの状態のまま。


「あ、あほちゃう…!も、抜いてや…」

「嫌や」

「しらいし…!」

「ごめんな」


 白石はやさしく微笑んでいるけれど、行為を止めてくれる気はないらしい。
 観念して金太郎は詰めていた息をゆっくりと吐いて、強張った体から力を
 抜いた。
 全身が熱い。頭が茹だるようだ。


「もぉ、あつい……」


 泣き言をもらすと白石は困ったような顔をした。
 困っているのはこっちの方だ。
 白石と一緒にいると、度々こういうことがある。


「白石、」


 握りしめていた手から力を抜いた。
 そのままそろりと白石の肩に手を伸ばす。
 意図を察した白石が体をかがめてくれる。


「は、ぁ…、ん、んん…!」

「金ちゃん、もうええの?」

「ぁ、ん…、も、っうる、さい、しらいし、ぅあん!」


 うずうずと腰を揺らし出す金太郎をからかうように白石は目を細めた。
 金太郎はキスもハグも好きなのか、恥ずかしげもなく白石にくっついてくるのに
 セックスだけは別だった。
 こういう時だけ普段の奔放さはなりをひそめて、ただただ白石にされるがままを
 受け入れる。


「あーあ、もう。さっきまで泣きながらもう抜いてぇとか言うてたのに…自分から
 腰振ってこの子は」

「そっ、んな、言い方してへんっやろ!はぁ、ああっ」

「俺にはそう聞こえてん」

「あう、もぉ、あ、あほちゃうっ!」

「んんー、だって俺、金太郎バカやからなあ」


 金太郎バカとはそれこそ無駄なく白石に当てはまる言葉だ。
 上手い事言った、と満足する本人をぽかんとした表情で見つめていた金太郎だが、
 ふとツボに入ったのか、くすりと笑った。
 笑った拍子になかに収まったままの白石を締め付けて息を飲む。


「………うっん、んんっ、しら、いし!」

「ん?」

「も、うごい、てっ!」


 焦れた金太郎がやけくそのようにさけんだ。半泣きで。
 もちろん白石はそのお強請りに大人しく従った。
 動きは大人しくはなかったけれど。







「で、金ちゃん俺の誕生日プレゼントは?」


 金太郎の後頭部を持ち上げてアイスノンを差し入れながら、白石はそんな風に
 うそぶいた。


「…ようそんなこと言えるなしらいし…」


 できれば一発殴ってやりたい。
 しかしくたりと力の抜けた熱い体を持て余した今、そんな暴挙に及べるわけも
 ない。
 すっかり身奇麗にされベッドに寝かしつけられながら、金太郎はため息をついた。


「うそうそ。もう貰いました」

「ほんまようそんなこと言えるな白石!」


 いちいち恥ずかしいねん、とくちびるをとがらせる金太郎を見て、ああやっぱり
 大人になったなぁと白石は感心する。
 きっと前だったら意味を理解できずに「なんかあげた?」とでも言いそうだ。


「金ちゃん、大人になったなぁ」

「年とって大人になったんは白石やろ」


 呆れたように言う金太郎に他意はなさそうで、「あ、思ったより大人になって
 へんな」と思わず口に出すと、金太郎が手を伸ばしてくる。


「金ちゃんごめんって……え?」


 頬をつねられるか、頭をはたかれるか。
 白石はどちらでも甘んじて受けようとしたが、金太郎が取った行動はどちらでも
 なかった。
 前髪をくいくいと引っ張られる。
 顔を寄せろということだろう。
 白石はこれまた大人しく従った。
 ご褒美のように、そのままごくごく軽いキスをされる。


「金ちゃ…」

「誕生日、おめでと」


 白石年とったのに、まだ言ってへんかったから。
 いたずらが成功した子どもみたいに金太郎は笑った。







スロウアップ、スロウダウン







───

 白石、お誕生日おめでとう!
 ずっと先もふたり仲良くいて欲しいです。



20120414