喧嘩の後の後




 四天宝寺中学校は相変わらずの賑やかさだった。
 ほんの3ヶ月前まで通っていた学校の前に、違う制服を着て立っている、という
 のも変な感じがする。


「ひかるー、どこ寄って帰る?」

「どこも寄って帰らへん」

「なんやなケチー」

「ケチで結構」

「ふんっ」


 拗ねた声と一緒に小柄な影が校門から勢いよく飛び出してくる。


「あっ!」


 白石と目が合った金太郎は、ぱっと表情を明るくさせた。
 しらいしや!と叫ぼうとしたところでケンカしていることを思い出したのか、
 むっとした顔を作ろうとするのが目に見えて分かる。
 結局、怒った顔を作り損ねた金太郎が、ふにゃりとうれしそうに破顔した。


「白石!」


 高校の制服を着込んだ白石が少しためらったあと金太郎の頭に手を伸ばした。
 わしゃ、と掻き混ぜてこちらも同じように笑って見せる。



「あー、犬も食わんあれが終わりましたか」


 犬の食わないなんとやらを金太郎と白石が1週間に渡って繰り広げていたらしい
 ことを財前は知っている。
 この1週間、金太郎はいつにも増して光ひかるとうるさかった。
 たかが、ととるか、されど、ととるかは人にもよるだろうが、この1週間は財前にして
 みれば長すぎた。
 部長は元部長の代理も兼ねるんですかね、と嘆息する。
 呆れ半分疲れ半分のその様子に、白石と一緒に校門前で待っていた謙也は苦笑した。
 代わりと言ってはなんだが、すまんな、と謝罪する。


 見慣れた後ろ姿がふたつ、仲良さそうに並んで歩いていく姿が微笑ましいやら
 憎たらしいやら。


「久しぶりにぜんざいでも食い行くか?」

「謙也さんの奢りなら行きます」


 2週間の労をねぎらってやろうと謙也が快く了承したところで、前を歩いていた
 二人組の姿に異変が起きている。


「またケンカっすか?!」


 腹を押さえて体勢を崩している白石と、どうやら怒っているらしい金太郎。


「白石のっ、そういうっ、デリカシーのないとこがキライなんやっ!」


 ふんっ、と金太郎は小さな肩をいからせて歩いて行く。
 どん、どん、と大きな足音を立てているのがいかにも「怒ってます!」風である。

 財前と謙也は「おお〜」と同時に感嘆した。


「金太郎にデリカシーとか言われるって…だっさ…」

「金ちゃん、デリカシーなんつぅ言葉知ってたんや…」


 き、金ちゃーん、と情けない声をあげている白石になおざりながら駆け寄る。
 二人の手を借りて身を起こした白石は、あいたた、と顔を顰めてから、悪いなと
 笑って見せたが、笑い事ではないだろう。
 金太郎はきちんと手加減をしたようだが、何しろ彼が本気の肘打ちなどを
 喰らわせたなら内臓破裂はかたいところだ。


「お前、今度は何言ってん」


 謙也が呆れて言った。白石の方に原因があるのは、この場合火を見るより明らか
 だったので、財前は黙ってその先を促した。


「いや、せっかく仲直りしたんやし、と思って…」

「思って?」

「今うち誰もおらんし、仲直りえっちしようやって言ったら痛い!!何すんねん!」


 突如二人から脛を蹴られて白石が悲鳴を上げる。


「お前、そりゃ金ちゃん怒るわ」

「最低っすね」


 デリカシーのかけらもない、と失笑された白石は黙って蹴られた箇所をはらう。


「でもほら見てみぃ」

「何がや」

「金太郎、ちゃんと俺んち向かって歩いて行ってるやん」


 今度は二人が押し黙る番だった。
 さも当然と言いたげな顔ではなく、なんでもないような顔で言われるのが
 また腹立たしい。


「……む、むかつくわぁお前!」

「…ほんま、試合で負けてもここまで悔しくないスわ」


 白石はにこりと微笑んで、あー、俺って愛されてるわーと嘯く。
 それを証明するかのごとく、「白石ぃ早よ帰るで!」と先を行っていた金太郎が
 立ち止まって叫んだ。







───

 白石はデリカシーのない男子な気がして…!
 クラスの女子にも悪気なく「あーなんか最近太った?」「そのダイエット効率悪いん
 ちゃう?」とか言ってまじぎれされてたらいいんじゃないかなと思いました。
 ギャップ萌えですね!(ん?)


20120216