腹に四天宝寺の核弾頭(小さい方)が頭から突っ込んできたらどうなりますか?
「ぐっふ…!」
こうなります。
しかし白石の顔が崩れたのは一瞬のことで、すぐに平静さを取り戻す。
本当に一瞬だ。痛くもかゆくもない、という体でにこりと笑う。
にこり、というのはやさしい表現で、あからさまに言うとでれでれと
笑っているわけだが。
甘やかしもここまでくると逆にすがすがしい。
部員達ももはや見て見ぬふりだ。
「なんやぁ、金ちゃん」
ひっついてきた金太郎の頭をわしわしと撫で回して、ほらストレッチから
やで、とコートへ送り出す。
「お前すごいなぁ。オレしばらく立たれへんかったぞあのタックル」
一部始終を見ていたらしい謙也が心底感心したという口調で言った。
あんなちっちゃいのにすごいパワーやもん。
そのちいさな体躯にすさまじいエネルギーを溜め込んでいる金太郎が
助走ありで飛びついてくるのだ。
なんの前触れもなしにというのも手伝って、謙也が金太郎ごと後ろに
ひっくり返ったのはそんなに前の話ではない。
千歳や銀が軽く金太郎をいなして抱き上げられるのは体格から見ても
当然だが、自分と似た体型の白石が倒れ込まないのが不思議だった。
「鍛えてるからな!」
「はぁ、さすが部長」
「金ちゃんが飛びついてきても大丈夫やで、って教えたらんとあかんやろ」
「え?」
ひかるー!ストレッチ組もうやー、と元気よく声を張り上げる金太郎を
見ながら白石は目を細める。
「あの子なぁ、力有り余りすぎてると思うねんな。同い年の子に一緒のこと
したら吹っ飛ぶどころの話ちゃうやろ。だからたぶんだいぶ遠慮してると
思うねん、あの子の友だち付き合いって」
「うん」
そりゃそうだ。
なんというか、金太郎は規格外なのだ。
彼が入部して2ヶ月ほど、すでに分かりすぎるほどに分かっている。
「そやから、俺らは金ちゃんが力いっぱい飛びついてきても大丈夫で
いたらなあかん。遠慮せんでええって思わしたらなあかんねや」
「白石…」
じぃん、と柄にもなく感動してしまった。
あの小さなゴンタクレのことをそこまで思いやっていたとは。
ただ単に甘やかしてるだけやなかったんやな!
「お前ほんますごいなぁ。やっぱり部長やわ」
「そうやろ」
ふふん、と笑うドヤ顔も今はかっこよく見える。
「じゃあ、」
「しらいしぃー!」
ストレッチ終わったぁ、と金太郎がぴょんぴょん跳ねながら報告している。
先ほどの真面目な話も、ドヤ顔もどこへやら、一気にでれっと相好を崩した
白石は「じゃあ金ちゃん、次はランニングや!」とメニューを告げた。
金太郎の後ろで財前が「はしゃぎすぎや」と呟いている。
果たして、金太郎になのか白石に向かっての言葉なのか定かではないが。
「……あー…」
じゃあオレも鍛えるわ、と言おうとして言えずじまいだった謙也である。
ま、白石は置いといて、金ちゃんのためにオレも鍛えてみるかな。
ラブ・コミュニケーション
───
そりゃ「はしゃぎすぎや」だよね。