I Love You
帰りはぜんざいか、たこ焼きか。
部長の採決はやっぱりたこ焼きだった。
ぜんざい押しだった財前ももはや何も言わない。白石の金太郎ひいきは今に
始まったことではないからだ。
「やったーたこ焼きやー!白石好きやー!」
ぴょーんと大きく飛び跳ねて、金太郎はその勢いのまま白石に抱きついた。
整った顔面が雪崩を起こしたかのごとくでれでれしている四天宝寺中テニス部
部長を見やって部員達がこれ見よがしにため息をつく。
早く早く、と白石の手を引っ張りながら、後ろに続く部員達に「早う行こ!」と
金太郎が急かす。
渋々従うもの、楽しそうに付いていくものとさまざまだが、結局行動をともに
するあたり仲のよさがうかがえるというものである。
特に白石と金太郎が手をつないでいる様はもはやテニス部恒例の光景だ。
他校との交流試合や合同練習中、目を離せば自分の興味を引いた方へ鉄砲玉のように
飛んでいってしまう金太郎を見かねて監督であるオサムは部長の白石にひとつ命令を
下した。
金太郎から目ぇ離すな、っていうか手も離すな。
鈴をつけられた猫のようで嫌だったのだろう、金太郎は行動を制限されることを
ひどく嫌う。
始めこそその調子で嫌がっていたものの、今では白石が手を取るとぎゅっと握り
返してくるようになった。ただし右手に限るが。
聞けば、小さい頃から自由に動き回るのが好きだった(随分オブラートに包んだ
言い方だ)金太郎だが、少々度が過ぎることがあり、その都度父親や母親、
幼稚園や小学校では担任の先生に手をつながれることが多かったのだという。
嫌とちゃうかったん?と聞けば「だってワイおとんもおかんもせんせーも好き
やったもん」と返ってきた。
とかく、そういう理由があって二人が手をつないでいてもテニス部員の誰ひとりと
してツッコミはしないわけだ。
先頭を歩く白石と金太郎はつないだ手をぶんぶんと振りながら歩いている。
歩幅を合わせているのは白石、手をぶんぶん振っているのは金太郎。
身長差がある二人の後ろ姿はまるで親子のようにも見える。
ぴゅい、と白石が口笛を吹いた。
機嫌ええなぁ、とユウジがつぶやき、そりゃあねぇ、と小春が受けた。
アホらし、と肩をすくめる財前をよそに、当の金太郎は「白石くちぶえめっちゃ
うまいなあ!」と目を輝かせている。
金太郎にとって自分にできないことができるということは尊敬に値するのだ。
「白石、なんか吹いてぇや」
「ええよ」
ぴーぴーぴー、ぴーぴーぴー、ぴーぴぃぴぃぴー
ぴぴぴ ぴぴぴぴぴ ぴぴぃぴぃぴーぃ
上手やなぁええなぁ、と金太郎が口笛に合わせて体を揺らす。
おそらくそれに気づいたのは自分だけだと財前は思った。
たぶん皆は聞こえていても聞いてはいないから気づかない。
そのフレーズ。
あいらびゅ、あいらびゅ、あいらぁぁぁびゅー
きみを しあわせに したぁぁぁあーい
(ゼ○シィやん!さっぶぅ!!)
「財前、どうしたん?めっちゃニヤけてるけど」
千歳と銀の会話に混ざっていた謙也がふと財前に声をかけた。
無意識にニヤついていたのが目に留まったらしい。
まぁ、笑いたくもなるわな、と財前は思い、そして口を開いた。
「部長、めっちゃこっ恥ずかしいっすわ」
「何言ってんねん、今更」
「今更やな」
「今更ばい」
三人はおそらく仲良く手をつないで上機嫌な白石についてだと思っているの
だろうけど。
きっと謙也も銀も千歳も、あの二人を微笑ましいと思いながら見ているの
だろうけど。
(金太郎、おまえ今愛の告白されとんねんで)
気づいているのは自分だけ。
財前はまたニヤリと笑う。
口笛のメロディーはイントロのサビから、一番メロディーに移行している。
興味を引かれた財前は帰りにレンタルCDショップに寄ってくだんのCDを借りたが、
(ウエディング特集のコーナーで発見)その歌詞を読んで白石のこっ恥ずかしさに
悶絶するのはまた別の話である。
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初・白金です。
手をつなぐはデフォルトということでひとつお願いします!