うちの子に何か御用ですか




「お前、応援してくれてたんちゃうんか」


 白石が恨みがましい口調で問う。
 金太郎に手を焼き、心を砕き、面倒を見ていた自分を励まし応援してくれた
 のは他でもない謙也である。
 しかしこの手のひらを返したような態度。
 金ちゃんたこ焼き食べに行こうや、と誘えば「今日はオレとたい焼き食いに
 行くんや」。
 金ちゃんストレッチ一緒に…「今日はオレと組むんや!」
 ことあるごとに自分と金太郎の間に割って入ってくるのだからたまらない。
 うちの子に何か御用ですかと言わんばかりの態度にため息しか出ない。
 例のスピードスターのお説教タイム以降、随分とガードが厳しくなった。
 金太郎ではなく、主に謙也の。


「応援はしてたで。前はな」

「なんでやねんっ!ますます応援してくれや!」

「できるかい!お前あんな子相手にふしだらなこと要求しようとしとんの
 やろ?!アホか!応援できるか!」

「ふ、ふしだらて…」


 言い回し古いな、と思わずつっこむとぎろりと睨まれる。


「いやその前にまだそんなとこまで進んでへんから。始まってもないから」

「じゃあ何か、お前恋愛のれの字も知らん金ちゃんにいきなり迫ったんかい!」

「ちゃうって」

「そういうことやろがー!」


 違います、と言い切れないのがつらい。
 謙也はばん!と次の授業である英語の教科書と辞書を机にたたきつけた。
 クラスメイトたちがその音に驚いて何人かちらりとこっちを見ているが、
 謙也にとってそんなことはさほど問題ではないらしい。


「あれはちょっとした流れと手違いで」

「何が流れと手違いじゃ!ただ単に本音ぽろりしてもうただけやろ」


 はい、正解!

 謙也は時折ものすごく鋭い。
 さすがに中学1年からつるんでへんわな、と白石は立場も忘れて感心した。
 感心して、素直にハイと頷いてしまう。


「でも俺真剣やねん!本気やで!」

「ほう。お前は真剣に本気であの子にいかがわしいことをしたいと思っとる
 いうわけやな」

「だーかーらー、なんでそう意地の悪い取り方をするんや」

「そういうことやろが」

「ちゃうわ!俺はあの子のことが好きなだけや!」


 まぁ、いかがわしいことも時が来ればさせていただきたいと思ってます
 けども!


「告ってもおらんのに何を言うとんねん」


 謙也の眼差しがさらに冷えた。
 けんやー、と縋るように呼んでみても「きもい」と一蹴される。


「分かった。なんもせん。なんもせんて誓うから今日は金ちゃんとたこ焼き
 食いに行ってもええやろ?」


 お願いします!と白石は両手を合わせて謙也を拝んだ。
 考えてみれば謙也は金太郎の保護者でも何でもないはずなのに、どうして
 こんなことになってしまったのか。
 何故謙也にこんなお伺いを立てて許しを得なければならないのか。
 理不尽なことこの上ないが、背に腹はかえられない。
 ここ1週間、金太郎と会話することもままならないのだ。
 白石としてもそろそろ限界である。


「うーん、まぁそれくらいなら」

「ええか!よっしゃー!」

「もちろん引率させてもらうけどな」

「はあ?!なんでやねん!なんもせんて言うとるやろ!」


 俺、どんだけ信用ないねん! 


「告りもせんうちから金ちゃんが欲しいとか抜かして、おまけに口癖が
 絶頂な男をどうやって信用せぇ言うんや」


 ぐ、と白石が言葉に詰まる。
 謙也は内心でほくそ笑んだ。


(ま、金ちゃんに対してはどこまでもへたれなおまえがどうせ何もできん
 ことも分かっとるんやけどな)


 それでもあえて邪魔をしたいのは、万が一のことを考えてだ。
 金太郎はやっぱり可愛い弟のような存在で、それを相手が白石とは言え
 簡単にくれてやるなんてできるわけがない。


「金ちゃんがどうしてもおまえと二人で行きたい言うんやったら話は
 別やで」

「…金ちゃんがそんなこと言うわけないやろうが!」


 白石ががくりと机に突っ伏すと、「きりーつ!」と委員長の号令が
 響いた。





───

 3-2は今日も仲良し。


20110827